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知識労働の産業革命

  ChatGPTを始めとする、いわゆる生成系AIというものが、世の中を席巻しています。僕が言っているだけでなく、世の中で広く言われていることですが、これは新しい産業革命だと思います。 蒸気機関による工場の機械化、さらに内燃機関や電力(モーター)による工場の高度化、そして電子機器によるさらなる高度化、というように、過去の産業革命は、工業分野を中心に世の中を変えてきました。それによって、かつては多くの職人によって作られていたモノが、機械により大量生産されるようになり、今となっては、ある程度、柔軟にカスタマイズできるまでになっています。多くの職人が不要になったというのは、確かだろうと思います。 一方で、今も職人はいます。超微細な手作業が必要なモノ。芸術性を求められるモノ。そうしたものづくりの分野には、匠とも呼ばれるような、機械に置き換えることのできない職人が活躍しています。 さて、生成系AIによる新しい産業革命ですが、こちらでも似たようなことは起きるのではないかと思います。知識労働における職人がふるいにかけられるということです。 例えば、システム開発の分野です。システムを作る上で、プログラミング、コードを書いてシステムを実装する能力というのは、ひとつの要素でしかない、ということは こちら でも書きました。 ノーコードでも必要なこと ノーコードという言葉が広まってきています。プログラミングの知識や経験がなくてもシステム開発ができる!というような触れ込みで、実際に No Code でコードを書かずにWebアプリケーションを作ることができる仕組みです... しかし、実際にシステム開発会社には、コードを書いてシステムを実装する能力だけで、仕事をしている人がとても多くいます。誰かの設計に忠実に、設計書をただプログラミング言語に翻訳するような仕事です。 このプログラミング言語への翻訳は、実はChatGPTが得意とする作業のひとつです。システムで実現したいことを英語や日本語で表現すれば、生成系AIによって容易にプログラミング言語に書き換えることができるとしたら、どうでしょうか。しかもAIに対しては、どれだけ厳しくやり直しを指示しても、機嫌を害したり、パワハラだと言われたりすることがありません。コードを書くだけの人の需要は大きく減る可能性があります。 つまり、当たり前のことですが、

ノーコードでも必要なこと

  ノーコードという言葉が広まってきています。プログラミングの知識や経験がなくてもシステム開発ができる!というような触れ込みで、実際に No Code でコードを書かずにWebアプリケーションを作ることができる仕組みです。現場の担当者が、業務を効率化するためのシステムを自ら作れるので、システム開発を外注するよりも、業務の実態に即したシステムが作れて、なおかつ改善サイクルが速く回ります。こうしたシステム内製化の捉え方については、 こちら でも書きました。 システム内製化のトレンド これまで多くの企業にとって、ICTと言えば外から買ってくるものでした。もしくは、業者に発注して作ってもらうものでした。それがクラウドサービスになって、借りてくるもの、みんなでシェアしながら使うもの、になりましたが、今は社内で作るものになり始めています... ただ、ここで注意したいのは、システム開発において、ノーコードを使うことで補える能力、コードを書いてシステムを実装する能力というのは、ひとつの要素でしかないということです。業務をシステム化するときに関係してくる要素を、大雑把に列挙すると以下の5つになるかと思います。 ビジネスセンス 業務を設計する能力 システムを設計する能力 業務を実装する能力 システムを実装する能力 いわゆるプログラマやシステムエンジニアといった職種の人たちも、必ずしもこれらの要素を兼ね備えているわけではありません。しかし、ビジネスに関するシステムを開発する際には、どれも重要です。以下、ひとつずつ、どういったものか説明します。 まずビジネスセンスという曖昧な言葉で何を言いたいのかというと、事業全体の成果につながる変化を生み出す力や方向性です。事業全体がどこに向かっていて、その際に業務はどうあるといいのか、ということが見えていると、その業務が事業全体の成果につながりやすくなります。 次に、そのために、その業務をどう設計するといいのか考えられるといいです。誰がどんな風に動いて、どんなモノを、どんな情報を、どのように動かしていくと、その業務というのは今より良くなるのか。というか、それが考えられないと、そもそも業務を変化させる意味がないですね。 そこからシステムの話になっていくわけですが、業務を設計するにあたって、システムがどこでどのように役立つといいのか。そして、システムが

簡単にできるIoT~振動の計測②

  前回 は、何を作るかを考えて、設計メモにまとめました。 簡単にできるIoT~振動の測定① 先日(といっても随分経ってしまっていますが…)とある方から、M5StickCというデバイスをいただきました。それで、どんなことができるのかと試してみたことを紹介します。 M5StickC このデバイスは親指(より少し小さい?)くらいのサイズですが、中にESP32-... まだプログラミング自体には触れていませんでしたし、大まかな設計をしただけですが、ここまで意外と考えることが多かったと思われるかもしれません。ですが、どう作るかよりも、何を実現するかの方が重要です。本来はもっと何を実現するかを模索するのに時間をかけるべきだと思います(そのためにシステムを試作することも含めて)。 さて、今回はさっそくこれを作ってみます。作る方法はネットでいろいろな人が教えてくれるので、それらを参考にすれば、すぐに作れます。 データを受け取って蓄積する側を作る まずは、Googleスプレッドシートに以下の図のような表を作り、M5StickCから受け取ったデータを書き込めるようにします(図では既にデータが蓄積されています)。 A列「gasCodeVer」:一応、動かしているスクリプトのバージョンを記録 B列「receiveTime」:データを受け取った時刻(receivedでないのはご愛嬌) C列「dataNum」:いくつデータが取れているかを記録 D列「data1」以降:加速度データ そのために、以下のことをします。 Googleドライブでスプレッドシートを作る 「ツール」→「スクリプトエディタ」からスクリプトエディタを開く Apps Scriptでスクリプト(コード)を書く 「デプロイ」→「新しいデプロイ」→「種類の選択」→「ウェブアプリ」からデプロイ 基本的なやり方は下の参考ページ(前半部分)を見れば、すぐに分かります。実際に手元で出る画面と少し違うところがあるかもしれませんが、だいたい一緒かな、という緩さをもって見ていくと良いと思います。 [M5Stack] M5Stackで取得したデータを、Google スプレットシートへ書き込む M5StackはWi-Fi機能との連携が特徴の一つとなりますが、やってみたくなるのがクラウド連携だと思います。そこで、今回は、Google

簡単にできるIoT~振動の測定①

先日(といっても随分経ってしまっていますが…)とある方から、M5StickCというデバイスをいただきました。それで、どんなことができるのかと試してみたことを紹介します。 M5StickC M5StickC(本体のみ) このデバイスは親指(より少し小さい?)くらいのサイズですが、中にESP32-PICOというモジュールが搭載されていて、WiFiやBluetoothの通信ができます。また、MPU6886というモジュールも載っていて、加速度、ジャイロ、(デバイス内部の)温度センサーが使えます。液晶画面やボタンもついています。要するに、いくつかのセンサーと、操作や通信をする機能がコンパクトにまとまっているデバイスです。 そして、このデバイスのいいところは、デバイスを制御するためのソフトウェアを作るのも非常に簡単ということです。ネットワークにつながる部分が既に作り込まれていて、少し追加で設定するだけで、すぐにWiFi(そしてWiFiを経由してインターネット)との接続も可能です。 この手の電子工作モジュールがよく売られている SWITCH SCIENCE でも扱っています。 何を作るか 機械などに取り付けたセンサーから得られるデータを、クラウドに収集して分析して、人の行動の参考にしたり、他のシステムを動かしたり、機械のコントローラーにフィードバックして自動制御したり、というのがよくあるIoTの全体像です。M5StickCを使えば、このようなIoT的なシステムが簡単に構築できることが期待できます。 とはいえ、このデバイスでどんなデータを取得したら役に立つのか、というのは意外と難しい話です。昨今、ノーコード/ローコードで、プログラマでなくてもプログラミングができる!ということがよく言われます。しかし、システムを作る上で難しいのは、コードを書くところよりも、何を作るかを決めるところです。これはプログラマやエンジニアでも上手くできる人が少ないですし、ユーザー企業で現場の業務をよく知っている人ならできるというわけでもないです。課題をよく吟味して、業務やビジネスがどう変化すると良いのかを全体最適の視点から捉えないと、間違ったものを作ってしまいます。 本来は、課題があって、それから手段が検討されるわけですが、今回は手段が手元にあって、そこから何ができるか考えています。完全に間違いパターンで

何のためのホームページか

HP(ホームページ)を作りたいときに、どんなサービスを使ったらいいとか、どんな機能を持たせたらいいとか、SEOをどうしたらいいとか、いろいろなアドバイスがあります。でもそのときに、「良いことをやれば間違いない」と、どこかの成功パターンを盲目的に採用していないかな、と思うときがあります。 誰かが検索したときに、自社のサイトが全然出てこないよりも、上位に表示される方が、良い悪いで言えば良いのは間違いないですが、でもそれってどれだけ必要なんでしたっけ? WordPressを使うとカッコイイページを作れて、ブログも組み込めて、更新しやすくて、いろいろな拡張機能があって、というのは確かなのですが、今その事業を運営するにあたって重要なことはなんでしたっけ? というような疑問が湧いてきます。余力があれば、やれること全部やっておけば良いのですけれど、何でもやるには資源が足りないからこそ戦略がある、ということにも常に留意したいところです。 ホームページの機能や性質、どんなツールを使って作るかは、「何のためのホームページか」ということから、最低限の落としどころが見えてくると思います。それで、その「何のためのホームページか」をどんな軸で捉えるのが良いのだろう、ということを考えていたのですが、そこで思い立ったのが下図の4象限です。 縦軸の考え方は、ホームページというよりWebサイトという表現の方が正しいのかもしれませんが、サイト上でサービスを提供するのかしないのか、です。例えばネットショップであれば、サービス提供あり。予約ができるというのも、予約サービスの提供と言えるかもしれません。オンラインサロンや有料ブログなどは、サイト上が主なサービス提供の場になっています。それに対して、よくあるホームページは、せいぜい提供サービスにまつわる情報をブログで発信しているくらいで、特にサイト上でサービス提供しようとは考えていません。 ここで縦軸の上半分、AとCに該当する場合は、提供したいサービスに特化したツールを使うことを優先的に考えて良いと思います。例えば、ネットで販売したいのであれば、BASEやShopifyのような、ネットショップ向けのツールを選ぶということです。「ホームページ」というものをあえて分離して考えなくても、兼ねてしまえるならば手間も減ります。 次に横軸は、ホームページによって集客をするか

システム内製化のトレンド

  これまで多くの企業にとって、ICTと言えば外から買ってくるものでした。もしくは、業者に発注して作ってもらうものでした。それがクラウドサービスになって、借りてくるもの、みんなでシェアしながら使うもの、になりましたが、今は社内で作るものになり始めています。いわゆる「内製化」です。 かつてソフトウェアを開発する企業に所属していた身としては、市場の大きな変化につながる話なので、とても気になっているのですが、多くの企業の方にとっては、まだまだ関心の薄い話題かもしれません。なので、なぜシステム内製化というトレンドが起こりつつあるかについて、僕の認識していることを少し書いておこうと思います。 とはいえ「なぜ」というのは非常に簡単な話です。経営、ビジネスモデル、事業の強み、といったものがICTと密接に関係するようになったからです。 アウトソーシングしていい業務と、してはいけない業務は何か、という議論をするとき、ひとつ大きな論点として、強みに直結するものかどうか、ということが挙げられます。その企業独自の強みを他社に依存すると、強みを持続させることも発展させることも危うくなるというのは分かりやすいと思います。システム内製化も同じ論点から出てくる話です。自社の強みの源泉となっている業務フローを支えるシステムだったら、自分たちの手の内に入れておくべきです。 また、今の時代が、不確実性が高く、かつ、変化の激しい時代である(と言われている)ことも、内製化の追い風になっています。不確実で変化の激しい市場に対応するビジネスは、その運用を柔軟に変化させ続けなければいけません。それも高速に。そのためには、システムもビジネスに追従して高速に変化させ続ける必要があります。システム開発を外注していたら、事業変化のスピードにはどうしたって追いつけません。システムが足を引っ張るようになります。必要なスピードを出すためには、社内で、ビジネスを回している従業員のすぐそばで、一体となって、開発をしていかなければならないのです。 そんなわけで、これまで「IT企業」とは言われていなかった企業が、続々とエンジニアの中途採用を始めて、自分たちでシステム開発をやれるようになってきています。そしてすべての企業が「IT企業」になる(逆に言えば「IT企業」という枠組みが消える)時代が来ようとしています。 もちろん、全てのシステム

ICTによるビジネスの変化②

前回 は、印刷業で小ロットの仕事に対応するために、ECサイトから同じ仕様の仕事を大量に受注してきて、大きな印刷機でまとめて印刷することでコストを削減する、という戦略と、そこでのICT活用について簡単に見てきました。今回は、「デジタル印刷機」を利用する戦略について、少し紹介したいと思います。 前提として、ここで言う「デジタル印刷機」とは何かをごく簡単に説明しておきます。従来型の印刷機(オフセット印刷機)では「版」を作って、そこからインクを紙に転写して印刷をしていました(正確には版が直接紙に触れるわけではないです)。しかし、みなさんが普段使っている「プリンター」は、そのような仕組みではなく、インクジェットであれば、紙に細かくインクを吹き付けることで、レーザープリンターであれば電子的に版に代わる部分にトナー(色の粉)をつけて紙に転写することで、印刷を行なっています。この「プリンター」の技術の精度をより高くしたものが「デジタル印刷機」といえます。 つまり、デジタル印刷機には「版」がありません。そのため、印刷することだけを考えれば、1枚だけ印刷しても、100枚印刷しても、2000枚印刷しても、1枚当たりのコストが変わらないのです。以前は、従来型の印刷機に比べて印刷結果が粗く、デジタル印刷機で代用できる仕事は限られると言われていましたが、昨今は高精細な印刷ができて色味も調整が可能になっているので、広く使われるようになっています。小ロット向きの生産設備と言えるでしょう。 世の中に、このような技術が台頭してきたときに、みなさんなら、どのような戦略でビジネスを変化させていくでしょうか。いろいろな可能性があるでしょうが、これまでは印刷部数が小さすぎて高単価になり受けることができなかった仕事を、現実的な料金でお客様に提案したくなると思います。 ひとつ流行ったものとしては(今もありますが)フォトブック作成サービスがあります。個人が写真アルバムを作りたいときに、それほど多くの部数を作りたいことはそうないと思います。せいぜい数部です。そのような需要に比較的安価で応えるために、ECサイトを用意して、定形フォーマットのフォトブックを全国から注文できるようにして、デジタル印刷機を中心に生産体制を組みます。分かりやすいビジネスです。 ただ、印刷というものをサービスとして捉えたら、少し違う方向から考える