スキップしてメイン コンテンツに移動

ICTによるビジネスの変化②

前回は、印刷業で小ロットの仕事に対応するために、ECサイトから同じ仕様の仕事を大量に受注してきて、大きな印刷機でまとめて印刷することでコストを削減する、という戦略と、そこでのICT活用について簡単に見てきました。今回は、「デジタル印刷機」を利用する戦略について、少し紹介したいと思います。

前提として、ここで言う「デジタル印刷機」とは何かをごく簡単に説明しておきます。従来型の印刷機(オフセット印刷機)では「版」を作って、そこからインクを紙に転写して印刷をしていました(正確には版が直接紙に触れるわけではないです)。しかし、みなさんが普段使っている「プリンター」は、そのような仕組みではなく、インクジェットであれば、紙に細かくインクを吹き付けることで、レーザープリンターであれば電子的に版に代わる部分にトナー(色の粉)をつけて紙に転写することで、印刷を行なっています。この「プリンター」の技術の精度をより高くしたものが「デジタル印刷機」といえます。

つまり、デジタル印刷機には「版」がありません。そのため、印刷することだけを考えれば、1枚だけ印刷しても、100枚印刷しても、2000枚印刷しても、1枚当たりのコストが変わらないのです。以前は、従来型の印刷機に比べて印刷結果が粗く、デジタル印刷機で代用できる仕事は限られると言われていましたが、昨今は高精細な印刷ができて色味も調整が可能になっているので、広く使われるようになっています。小ロット向きの生産設備と言えるでしょう。

世の中に、このような技術が台頭してきたときに、みなさんなら、どのような戦略でビジネスを変化させていくでしょうか。いろいろな可能性があるでしょうが、これまでは印刷部数が小さすぎて高単価になり受けることができなかった仕事を、現実的な料金でお客様に提案したくなると思います。

ひとつ流行ったものとしては(今もありますが)フォトブック作成サービスがあります。個人が写真アルバムを作りたいときに、それほど多くの部数を作りたいことはそうないと思います。せいぜい数部です。そのような需要に比較的安価で応えるために、ECサイトを用意して、定形フォーマットのフォトブックを全国から注文できるようにして、デジタル印刷機を中心に生産体制を組みます。分かりやすいビジネスです。

ただ、印刷というものをサービスとして捉えたら、少し違う方向から考えることもできます。多くの印刷会社は、個人相手(BtoC)よりも事業者を相手に(BtoB)ビジネスを続けてきています。そこで、印刷サービスは、顧客企業の業務改善であると考えてみましょう。

例えば、顧客企業が複数の販売店を基盤としたBtoCビジネスを展開していて、顧客に対してDMやチラシ、パンフレットのような紙媒体で販促をしていたとします。その場合、本部で販促物を一括で印刷するよりも、販売店ごとに使う販促物を選んで必要数を印刷した方が良いかもしれません。そうであれば、印刷会社は、各店舗から発注できるwebサイトを提供して、それを小ロットで印刷して配送するサービスを展開してはどうでしょうか。販促物のデザインは本部で作って管理できるようにすると良いかもしれません。また、どの店舗が何をどれだけ印刷しているかを本部で集計できる機能も提供した方が良いかもしれません。

このように小ロットの印刷ができることをベースにした、顧客企業の業務改善をいろいろと提案できるようになると、営業活動はガラッと変わってきます。印刷を請け負うというよりも、業務改善やシステムの提案・開発・運用をしていく企業と言えるでしょう。もっと販促寄りで考えていけば、広告代理店のようにもなるでしょう。

一方でビジネス側をしっかりと支えるためには、印刷工場では、極端な話、1部から入ってくる注文を処理できなければなりませんから、できるだけ自動化を進めたいところです。その点、デジタル印刷機は、「版」を取り付けたり掃除したりというオペレーターの作業が発生せずに、デジタルデータを送ればすぐに印刷ができます。受注、生産、配送までのシステムを連携しておけば、小ロットの仕事に見合ったコストで生産ができるようになります。


ここまでをまとめます。

1. デジタル印刷機の導入

→版が不要だから小ロットで低コスト

→システム連携しやすい

→生産を自動化しやすい

2. 小ロット対応を活かして顧客企業の業務改善提案

→例えばwebを使った小口での販促物発注の仕組み

→印刷屋から、コンサルやシステム屋、広告代理店への転換

さて、印刷会社のICT活用を例にして、ビジネスがどんな風に変わり得るのかを少し紹介してみました。前回は、伝統的な手法である「付け合わせ」をICTで強化する戦略。そして今回は、ICTと親和性が高い比較的新しい設備「デジタル印刷機」をベースに新しいビジネスを構築する戦略。どちらも本格的にやろうとするとシステム開発を伴うので、ICT活用としては上級編と言えるかもしれませんが、経営課題とそれを解決するための戦略、ビジネスの変化、ICT活用といったものが、かみ合っていくイメージが示せれば良いと思いました。

多少なりともイメージが伝わっていると良いのですが・・・。

このブログの人気の投稿

システム内製化のトレンド

  これまで多くの企業にとって、ICTと言えば外から買ってくるものでした。もしくは、業者に発注して作ってもらうものでした。それがクラウドサービスになって、借りてくるもの、みんなでシェアしながら使うもの、になりましたが、今は社内で作るものになり始めています。いわゆる「内製化」です。 かつてソフトウェアを開発する企業に所属していた身としては、市場の大きな変化につながる話なので、とても気になっているのですが、多くの企業の方にとっては、まだまだ関心の薄い話題かもしれません。なので、なぜシステム内製化というトレンドが起こりつつあるかについて、僕の認識していることを少し書いておこうと思います。 とはいえ「なぜ」というのは非常に簡単な話です。経営、ビジネスモデル、事業の強み、といったものがICTと密接に関係するようになったからです。 アウトソーシングしていい業務と、してはいけない業務は何か、という議論をするとき、ひとつ大きな論点として、強みに直結するものかどうか、ということが挙げられます。その企業独自の強みを他社に依存すると、強みを持続させることも発展させることも危うくなるというのは分かりやすいと思います。システム内製化も同じ論点から出てくる話です。自社の強みの源泉となっている業務フローを支えるシステムだったら、自分たちの手の内に入れておくべきです。 また、今の時代が、不確実性が高く、かつ、変化の激しい時代である(と言われている)ことも、内製化の追い風になっています。不確実で変化の激しい市場に対応するビジネスは、その運用を柔軟に変化させ続けなければいけません。それも高速に。そのためには、システムもビジネスに追従して高速に変化させ続ける必要があります。システム開発を外注していたら、事業変化のスピードにはどうしたって追いつけません。システムが足を引っ張るようになります。必要なスピードを出すためには、社内で、ビジネスを回している従業員のすぐそばで、一体となって、開発をしていかなければならないのです。 そんなわけで、これまで「IT企業」とは言われていなかった企業が、続々とエンジニアの中途採用を始めて、自分たちでシステム開発をやれるようになってきています。そしてすべての企業が「IT企業」になる(逆に言えば「IT企業」という枠組みが消える)時代が来ようとしています。 もちろん、全ての...

簡単にできるIoT~振動の計測②

  前回 は、何を作るかを考えて、設計メモにまとめました。 簡単にできるIoT~振動の測定① 先日(といっても随分経ってしまっていますが…)とある方から、M5StickCというデバイスをいただきました。それで、どんなことができるのかと試してみたことを紹介します。 M5StickC このデバイスは親指(より少し小さい?)くらいのサイズですが、中にESP32-... まだプログラミング自体には触れていませんでしたし、大まかな設計をしただけですが、ここまで意外と考えることが多かったと思われるかもしれません。ですが、どう作るかよりも、何を実現するかの方が重要です。本来はもっと何を実現するかを模索するのに時間をかけるべきだと思います(そのためにシステムを試作することも含めて)。 さて、今回はさっそくこれを作ってみます。作る方法はネットでいろいろな人が教えてくれるので、それらを参考にすれば、すぐに作れます。 データを受け取って蓄積する側を作る まずは、Googleスプレッドシートに以下の図のような表を作り、M5StickCから受け取ったデータを書き込めるようにします(図では既にデータが蓄積されています)。 A列「gasCodeVer」:一応、動かしているスクリプトのバージョンを記録 B列「receiveTime」:データを受け取った時刻(receivedでないのはご愛嬌) C列「dataNum」:いくつデータが取れているかを記録 D列「data1」以降:加速度データ そのために、以下のことをします。 Googleドライブでスプレッドシートを作る 「ツール」→「スクリプトエディタ」からスクリプトエディタを開く Apps Scriptでスクリプト(コード)を書く 「デプロイ」→「新しいデプロイ」→「種類の選択」→「ウェブアプリ」からデプロイ 基本的なやり方は下の参考ページ(前半部分)を見れば、すぐに分かります。実際に手元で出る画面と少し違うところがあるかもしれませんが、だいたい一緒かな、という緩さをもって見ていくと良いと思います。 [M5Stack] M5Stackで取得したデータを、Google スプレットシートへ書き込む M5StackはWi-Fi機能との連携が特徴の一つとなりますが、やってみたくなるのがクラウド連携だと思います。そこで、今回は、Go...

無料でHPを作る

HP(ホームページ)というのは、多くの中小企業にとって最初に検討されるITツールのひとつだと思います。昔からHPを作成するための様々なサービスが提供されてきましたが、今も便利なサービスが多くあります。そして、無料で簡単にHPを作ることのできるサービスもあります。 有名なところで以下3つのサービス。 ・ WiX ・ ジンドゥー(Jimdo) ・ Googleサイト どれも(2020年夏現在)流行りの「ノーコード」でHPが作れるサービスになっています。他にも STUDIO や Webflow 、 ペライチ といったサービスもあり、選び放題です。 ここでは当事務所のHPを最初に挙げた3つの無料サービスでそれぞれ作ってみて、感じたことなどを、少し紹介しようと思います。 まずジンドゥーで作ったHPが こちら 。 URLは xxx.jimdofree.com(xxxはユーザー登録時に任意に決められる)になります。そして、一番下(フッター)にジンドゥーの広告が入ります。これは無料プランでは変更・削除ができません。 どのサービスでもそうですが、最初から用意されているテンプレートを選んで、必要な部品を残しつつ改変していくとすぐに作れます。もっと写真を強調したオシャレ雑誌みたいなテンプレートもありましたが、ここでは名刺の裏に合わせて、単色の背景にしてみました。 テンプレートの部品ごとに背景色を設定する必要があり、ページ全体を同じ色に変えるのは、少し手間がかかります。何がどこで定義されているか探すパズルみたいです。ブラウザのタブのところにも表示される、ページタイトルをどこで設定できるかも、直感的には見つけられず、いろいろ探しました(管理メニュー→パフォーマンス→SEO)。 一方で、お問合せページを作るのはとても簡単で、プライバシーポリシーを記載するページも、既にあるもの(ただしほぼ空白)を編集するだけでした。 次にWiXで作ったページが こちら 。 URLは xxx.wixsite.com/yyy(xxxはアカウント名、yyyは任意のサイト名)となります。そして、無料プランは最上部に広告が出て、スクロールしても消えません。ファビコン(ブラウザのタブのところに表示されるアイコン)も有料プランでないと独自のものを設定できません。今回の3つのサービスの中では一番広告が目立ち...